第4章 ~くるり、くるりと悠久の輪廻~
「失礼致す…」
そう言った真田様は抱きしめていた腕をゆっくりと解き、まるで壊れ物を扱うかの様に私の手首を掴み、少し急ぎ足で庭へと向かった。
真田様は女性と触れ合う事が苦手の筈。
なのに彼は震えながらも私が勝手に負った火傷を心配して下さり、こうやって水で傷を冷やしてくれている。
「…申し訳ござらぬ」
急いで外に出た為に傷に宛てがう布を忘れてしまい、今は真田様の何時も巻いている鉢巻が私の掌に乗っていた。
「謝るのは、私の方です…」
私が勝手に負った。
ただ、それだけの事。
だけど、私は真田様の御心を踏みにじった。
謝っても、謝りきれない…。
「何を申すか!俺が勝手にした事だ。名前殿が…貴女が謝る事はない…」
何時もと違う口調に私の心臓が跳ねる。
甘いものが大好きな可愛いらしい男の子。
だけど、ひと度槍を持ついで立ちは、あの武田信玄公の意思を継ぐ者、甲斐の虎若子…真田源次郎幸村。
私の傷を癒す真剣な眼差しは、私を捉えて離さないでいる。
年下の真田様。
だけど、私の手を労る彼の手は大きくて、そこら中に豆だらけで…。
あぁ、男の人なんだなと意識をして仕方無い。
「名前殿…」
そんな事を思いながら手当をしている真田様を見つめていると、急に私の名前を呼んだ。
思わず身体が揺れるのは仕方無い。
真田様の視線が傷から私の方へと向けられる。
月明かりに照らされた真田様の瞳に何時かと同じ様に私が映り込む。
「さ、真田様…」
真田様に包まれた私の手が彼の顔の位置まで上がった。
そして宛がった彼の鉢巻が私の両手を絡める。
まるで逃がさないと言うように、紅い手錠を架けられたみたいに。
「某の事はどうか…」
先程と同じ様に、幸村とお呼び下され…。
どうしよう…
私、こう言う熱を帯びた表情に弱いんだった…。
「あ、で、でも…」
あの時は思わず名前で呼んでしまったけど、立場が違い過ぎる。
所詮私は只のトリッパーで、運良く秀吉様の養子になった。
ただ、それだけ…。
下を向けていた視線を再び真田様に戻すと、有無を言わせない様な鋭くも甘い視線。
私の心臓がさっきから煩くて仕方無い。
「某は…俺は、貴女様を…」
「あ…」
私の指先が真田様…幸村様の吐息に触れた瞬間、
身体中が痺れた。