第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
あの日、我は名前の部屋へ行った。
何時も我と共に茶をするが、この日は幾ら刻が過ぎても来はしなかった。
名前と仲の良い女中に聞くと早めに上がって寝ていると言う。
そう言われ、我は名前の部屋へと向かい、声を掛けるも返事がない。
少し引戸を開け様子を伺うと名前は褥で横になっていた。
安堵の溜息を漏らすとそのまま引き返そうとしたのだ。
「待って…」
そう名前の声が聞こえたので振り返り、#名前#の元へ行き名前を呼ぶ。
だが、反応がなかった。
枕元へ腰を下ろす。
夢見が悪いのだろうか、汗をかき、額に髪が張り付いている。
それを横に流してやり、頬に手を添えると名前の唇から先程の台詞が繰り返された。
「誰、貴方は誰なの…」
何度も誰と言う。
我では無い他を呼ぶ。
ワレデハナイ…
胸が痛み、我はそのまま名前に…
唇を落とした。
口付けた瞬間、名前の身体が反応を示し、起きると思ったのだが、その心配は無用であった。
その時であろう、我はふと名前の手元を見てみると微かな気配がしたのだ。
名前の手から何かが転がった。
「花…?」
それを手に取った瞬間、背筋が凍る様な感覚に陥った。
「もとなりさま、見てますかぁっ!」
あの日の事を思い返していた我はいつの間にか#名前#に手を払われて名前の顔が目と鼻の先にあった。
「!?」
何事と思い、今の状況を確かめると、名前が我の上にまたがって居る…
はっ!?
先の事の間に何かやり取りしていたらしく、名前の着物は果てしなく乱れ我の理性は限界まで来ていた。
「っ!…名前っ!」
「あいたぁーっっ!!!」
酒を乗せて置いた盆で名前の頭を殴った。
我は二度と名前に酒を呑ませまいと誓った…。