第4章 ~くるり、くるりと悠久の輪廻~
【拾参】
「まぁ、幸村様!」
珍しい事もございますね!
小間物屋の女将がそう言って俺を出迎えてくれる。
確かに珍しいと俺でも思う。
何時もは甘味処しか寄らぬ故、こう言った場所には入った事すらないのだ。
「う、うむ…知人に結紐を贈りたいのだ。幾つか見せては貰えぬだろうか」
目を瞑ると思い出すのは名前殿。
何時も邪魔そうに髪を流す姿が浮かび上がる。
俺はそんな名前殿に髪を括る結紐を贈ろうと思い、城下までやって来たのだ。
「幸村様の好い人だ。さぞ美しい姫様で御座いましょう!」
俺の、好い人…だと!?
「や、ち、違うぞ!そっ、そそ某は知人だと申したではないか!!」
女将の言葉に動揺してしまう。
ついつい口調が俺から某に戻ってしまう。
「お顔が真っ赤にございますれば、幸村様は真、おわかりやすい!」
そう言った女将は奥へと入って行った。
「む、むう…」
何も言いかえせない俺はまだまだ未熟な証拠。
城に着いたら己の精神を鍛え直さなければ!
見ていて下され、お館様!
この幸村、立派に鍛え直して見せましょうぞっっ!!
「女将、これを包んでくれ!」
武田の赤に名前殿の瞳と同じ翡翠色で編まれた結紐を女将に頼むとそれを薄桃の和紙に包み俺に渡す。
「ありがとうございます、頑張って下さいませ!」
そう言われ、若干動揺してしまったのは仕方の無い。
「う、うむ、忝ない!」
今出来る精一杯の感謝を述べ脱兎の如く、その場から逃げた。
「や、やりましたぞ!お館様!」
お館様、これで幸村は#名前#殿のお心に少しでも近付ける事が出来まするっっ!!!
見ていて下され!
「うぉやかたさぶぁぁぁあぁっっ!!!」
「あーぁ…恥ずかしい…」