第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
そう言った半兵衛様は優しく微笑む。
彼女は瞳いっぱい涙を浮かべ頷いた。
「ご、めん…なさい、私は…」
彼女の瞳から幾つもの涙がこぼれ落ちる。
それを切なそうに、だけども愛おしく見つめる半兵衛様。
「解って…るから、泣かないで…」
僕も知っていたんだ。
何れ、こうなる事を…。
目を静かに伏せ、ゆっくりと私に視線を向ける半兵衛様。
「だから…三成君、君に全てを託そうと思ってね」
そう言った半兵衛様は私に向かって微笑んだ。
「私には、私にはっ!!」
私には、半兵衛様が必要です!
そう言おうとした時だ。
半兵衛様は私の言葉を遮り、強く言葉を返した。
「目を覚ませ、甘えるな…!」
それは、子を叱る母のような…。
「っ、僕が…躾よう、そして許可しよう…」
私の手を掴む半兵衛様の手からは徐々に力がなくなり、今にも消えてしまいそうになる。
「そんな事はっ!今からでも医者を!」
そう言った半兵衛様は私の手を緩く掴み医者を呼びに行こうとする私を制した。
「三成君、ありがとう…」
そう言うと半兵衛様は空を見上げた。
「あぁ…時刻が来たようだ…」
もう、私を掴んでいた半兵衛様の手は力無く宙に浮き、美しかった紫色の瞳は陰っていた。
「半兵衛、様!半兵衛様!!」
嫌です!三成めを遺して逝かないで下さい!
何度も何度も訴えるも、耳も聞こえていないようで私の声だけが虚しく響く。
「三成く…彼女と…とよ、をよろ…くたの、む…」
そして、最後の力を振り絞り彼女がいる方へと手を伸ばし聞こえるか、聞こえないくらいの声で言葉を紡いだ。
「半兵衛、様…!うぁああああぁッ!!」