第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
夢であって欲しい。
あれから私はあの事が頭の中を占領し、手に付かない状態。
思い出せば赤面をし、物思いにふけるの繰り返し。
お菊さんに恋煩いですか、と聞かれた時は慌てて否定をしたっけ。
前回と違う事、それは夢から覚めても憶えていると言う事。
顔は霞んでいて解らないし、声も聞こえない。
だけど、確かに憶えている。
私は無意識に己の唇に指を添えた。
まだ、熱い…。
未だに残っているような気がして…。
「はぁ…」
私は仕事中にも関わらず、ため息を付くとお菊さんがニコニコしながら話しかけて来た。
「そう言えば、元就様も何だか様子が今の綺矢様と同じでした」
元就様の好い人と何か進展がありましたのでございましょう、と言う。
私は目を見開いた。
元就様に好いヒト…だと!?
大事な事なのでもう一度言うけど、
「元就様に好い人、だとっ!?」
まじでかっ!
知らなかったよ、そんな人がいらっしゃるだなんてと私はお菊さんに詰め寄った。
ん、それじゃあ、あの時のキスは…
遊びだったのねっ!!
チクショー、私の唇かえせーっ!
「…はぁ、そうでした。分かって居ないのは#名前#様だけで御座いました…」
彼女が私を困った様に見つめていたのだけれど、私はそれどころでは無かった。
勿論何か喋っていたりもしたのだけれど、彼女の話を全く聞いていなかった私は、あの時の私を誰か蹴り倒してきて欲しいと切実に思っていた。
そんな私にお菊さんは終始呆れていた事をグダグダしていた私は知らない。