第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
月を眺める。
望月にはまだ早いが、やはり月は美しい。
半兵衛様の自室から淡い灯りが漏れる。
あぁ、良かった。まだ起きていらっしゃった。
部屋の付近迄近付くと、半兵衛様以外の気配がした。
これは、名前、か…。
そして、私は一歩踏み出した、その時だ。
「っ…ぁ…し、重治、さん…っ」
私は走った。
何も考えず、ただ、ただ、ひたすらに走り続けた。
「っ…はぁ、はぁっ…」
息が出来ない。
呼吸とは、何か。
言葉とは、何か。
人間としての当たり前の事が、私の頭の中から綺麗に消え去る。
「私は、私は…」
月が陰り、やがて雨が降り注ぐ。
私は自身を強く抱く。
「私には、孤独しかないのか…」
美しく浮かび上がっていた十三夜月はもう居ない。
あの時の彼女はこの月と同じように、消え去ってしまった。
雨は強くなる。
私もあの月の様に、消え去る事が出来るのなら……。