第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
僕は彼女の背中に手を添え、皆が集まる部屋へと促してやる。
皆と言っても今日は上層部の人間しかいない事を伝えると彼女の表情が固まった。
どうやら秀吉だけだと思っていたらしい。
僕は大丈夫、自己紹介するだけだから、と伝える。
「わ、わた…っ!!」
僕は緊張する彼女の唇を奪った。
そして何も心配する事はない、と言うと、顔を真っ赤にして頷く。
少しは緊張が解けたかな?
それとも、逆効果?
「君は此処で待っていてくれ」
呼んだら入ってくるんだ、と彼女に言うと、無言で頷く。
僕は微笑み彼女を背にし、部屋へと入った。
「待たせて済まない」
部屋に入ると皆が揃っていた。
秀吉を始め、三成君、家康君、大谷君に黒…まぁ、良いや。
(何故じゃっ!)
「秀吉以外は彼女の事は知っているね。だが…」
僕は説明を始めた。
あの時の事を話すと秀吉と黒田君以外は顔を歪めあの時を思い出している。その話が終わると若干ではあるが秀吉も、黒田君も何とも言えない表情だ。
そして、それに伴い記憶が退行してしまっている事も伝えた。
「は、半兵衛様!」
すると、三成君が声を上げた。
無理もないだろう。
彼女は今、君の事を知らないのだから。
「無理はさせたくない」
くれぐれも、無理に記憶を引き出そう等考えないでくれたまえ。
僕は彼等に念を押した。
あの時の事は忘れていて良い事だ。
そして、僕だけで良い…。
君の事を知っているのも、覚えているのも、
僕だけで、
良いんだ…。
「じゃ…頼んだよ、秀吉」
そう言うと秀吉は無言で頷く。
横目で三成君を伺うとまだ何か言いたそうな感じだが、見なかった事にして置く。
「入り給え」