第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【twenty-second.】
全く、彼に頼んだ僕が愚かだった…。
事の発端と言うと、今日は色々と出払っていて彼女の為に用意した着物を運ぶのにどうしようか悩んでいた。
僕が持って行くには少々荷物が多すぎる。
かと言って、何往復もするには時間が勿体無い。
さて、どうするか。
すると、運良く僕の目の前を鼻歌混じりで通り過ぎる黒田君を見付けた。
彼にこの僕が選んだ着物を運ばせるのは癪だが、仕方ないだろう。
「黒田君、少し良いかな」
僕は彼に着物を運んでくれと頼んだ。
まぁ、分かりきっていた事だが、給金上げろやら枷を外せと言って来た。
僕は仕方なく大谷くんに枷の事を話して置くと言うとすんなりと話しが通った。
「いいか、絶対だぞ!」
僕は曖昧な返事をし、荷物を持たせ彼女の所へと向かった。
その間にも、黒田君は嘘を付くなよ、やら何やら…。
やはり、彼に頼んだのは間違いだったようだ。
「少し此処で待っていてくれ」
まだ小言を言う黒田君に待つように言うと彼女に向かって一声かけた。
「入るよ」
少し間があったが、返事が返り、僕は中へと入る。
入って直ぐに彼女の姿が映る。
今朝の話もあり、自然と僕の表情が綻ぶ。
「どうしたんだい?」
彼女は僕の顔を見つめ、そわそわしてるようにも思える。
そんなに僕の顔が可笑しかったかい?
それとも、自惚れて良い?
僕は微笑み、顔が赤いよと一言添える。
「な、何でもないです…」
更に顔を赤らめる君。
君は僕をどうしたいんだ…。
これは、そう言う意味で捉えても良いんだね?
「ふふっ…まぁ、そう言う事にしておいてあげるよ」
これは僕にも言える科白だ。
全く、君はこうも僕を狂わせる。
「秀吉にお目見えするから新しい着物を持って来たんだ」
僕はそう言い、廊下で待つ黒田君に向かって入り給え、と言った。
そこ迄は良かったんだ。
黒田君を見て驚かない君に僕は驚いたがそこじゃない!
事もあろうか、黒田…もう名前はどうでも良い!(何故じゃーっ!)
アレは僕の大切な人に傷を負わせた!
彼女は君の様な下等な人間が触れて良い者ではない。
これは…
許せないだろう?