第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【twenty-first.】
「え?わたしが?」
朝、重治さんが来てわたしに凄い事を言って来た。
いくら馬鹿なわたしでも知っているビッグネーム。
「そう。具合も良くなって来たし、この城にいる限りは…ね」
重治さんはニッコリと微笑み、わたしに言う。
それはそうだが、こんな得体の知れない人物を会わせて良いのだろうか。
「あぁ、それなら問題ないよ」
彼は一体何手先が見えるのだろう…。
此処は平成の時代より遥か昔、数百年前の時代…戦国時代。
でも、わたしの知っている戦国時代とは大きくかけ離れていた。と言っても、歴史には詳しくない。
でも、流石にこの人の名前くらいは知っている。
豊臣秀吉…。
この場合、お世話になっているし、主なわけだから様を付けた方が良さそうね。
どうしようとぼんやり思っていると廊下側から声がかかる。
「入るよ」
ドキン。
彼の声だ。
何でもないたった一言でもこんなに飛び上がるほど嬉しくてドキドキするなんて、余程な事なんだと思う。
いくら心臓があっても、足りないよ…。
「どうしたんだい?」
顔が赤いよ、と重治さんは言う。
「な、何でもないです…」
貴方のせいです、だなんて口が裂けても言えない…。
「ふふっ…まぁ、そう言う事にしておいてあげるよ」
ちっ…バレてる…。
「秀吉にお目見えするから新しい着物を持って来たんだ」
彼はそう言い、廊下に向かって入り給え、と言った。