第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【twentieth.】
そろそろ、良いだろう。
今、此処で行動に移して置かないと、痛い目を見るのは…
僕だ…。
僕の刻が止まっている内に…。
そうしたら…
後は…
君の番だ…。
だから、今だけは…
僕の我が儘を…
許して欲しい…。
「…ねぇ、秀吉」
君に頼みたい事があるんだ…。
僕は秀吉が手すきになる頃を見計らい、彼の部屋へと向かい、事の始めを言う。
「…珍しいな。半兵衛が直接頼みとは」
余程珍しかったのだろう。
秀吉は滅多に崩さない表情を少しだけ和らげた。
「ふふっ。僕にも頼みの一つや二つくらいはあるって事だよ」
何時もは戦や執務などで殺伐とした雰囲気の秀吉と僕。
たまにはこんなのんびりでも良いと思うくらいに穏やかな風が僕らを包んだ。
「フッ…。半兵衛の頼みだ。聞き入れん事もない。話してみよ」
フフッ…。
あの時の秀吉の驚いた顔は今でも脳裏に焼き付いている。
それはそうだ。
僕には浮いた話が一つもなかったからね。
まぁ…有ったとしても絶対に表沙汰にはしない。
僕の通り名の様に、ね…。
「さてと…」
善は急げと言う事だ。
早速彼女の元へ行って伝えよう。
勿論、肝心の所は秘密だ。
彼女がその事を聞いたら驚くに違いない。
そして秀吉が首を縦に振るまでは僕は絶対に諦めないし、必ず説得して見せる。
正直、秀吉には少々酷な事かも知れないが、僕は必ず首を縦に振らせるよ。
必ず…ね。
そんな事を考えていると、いつの間にか彼女の部屋の前に到着していた。
秀吉の居る天守閣から彼女の部屋まではかなり距離がある。
余程浮かれていたのだな、と僕は肩をすくめた。
まぁ、良いか。
早く話したくて仕方ない。
彼女の反応が見たい。
どのくらい、驚くのだろう。
僕は彼女がいる部屋に向かって声を掛けた。
「おはよう。今、良いかい?」
あぁ、今夜は眠れそうにない。