第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【nineteenth.】
月が綺麗ですね。
わたしの世界ではこの言葉を『あなたが好きです』と例えた。
わたしはこの事を聞いた時、子供ながら何て素敵で美しい言葉なんだろうと物凄く衝撃を受けた。
縁側に腰を降ろし、空を見上げると藍色に縁どられ、美しい銀色をした丸い月が浮かび上がっている。
少しだけ冷たい風がわたしの髪を靡かせた。
いつの間にか短くなっていた髪の毛。
折角伸ばしていたのにと短くなった髪を指に巻き付け弄ぶ。
色々な事を重治さんに聞こうとするのだけれど、わたしが動ける様になったのも声が出るようになったのも本当に最近の事。
それに、重治さんは物凄い忙しい人みたいでわたしに構ってる時間なんてないと思ったから、まだほとんど聞いていない。
聞けた事と言えば、此処がわたしが暮らしていた時代から数百年前の時代、つまりは戦国時代という事だけ。
わたしは有り得ない、と思った。
だって、こんな事は物語の話だし、まさかわたしが体験するなんて誰が思う?
それに…。
それに、あの時に願った事が現実になるなんて…。
「しげ、はる…さん」
どうしよう…。
あの人の名前を唇でなぞるだけで、こんなにも胸がギュっとなる。
少しだけ意地悪な人。
でも優しくて、美しくて…。
わたしがこんなに近くに居たら迷惑なんじゃないかと何時も思っていた。
釣り合わない。
分かっているの。
でも、この気持ちだけはどうしようもない。
彼の所にしか、行けないの…。
わたしはもう一度、美しい月を見上げた。
この月を見ていると、何か大切な事を忘れているような気にさせられる。
何だろう。
わたしはその月を食い入るように見ていた。
「わたしは、何かを…」
そう呟き、月に向かって手を伸ばす。
そこに何かがある様な気がしたから…。
それを掴もうとした時だった。