第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【eighteenth.】
どれだけの刻が流れただろうか。
彼女に費やした時間を取り戻すべく、僕はひたすら筆を動かし執務に没頭していた。
別に彼女が悪い訳ではない。
寧ろ僕にとっては幸福な事だ。
ずっと、ずっと君に逢いたかった。
ずっと、ずっと君に触れたかった。
ずっと、ずっと君に伝えたい事があったんだ。
あの時、伝える事が出来なかった。
でも、今は…。
こんなにも、近くにいる。
「そろそろ薬湯の時間、か」
女中が彼女の薬を持って来る頃だろう。
僕は筆を置き、ふと外を眺める。
時折、強い風が建物を軋ませる。
そう言えばと昔を懐かしむように目を細め外に向かって風を掴む様に手を伸ばした。
あの時も、この様な風が吹いていた。
その時だ。
今迄の風よりも遥かに強い風が僕の視界を塞ぐ。
その風のせいで長い間認めた書類が舞い上がる音が聴こえた。
「はぁ…」
また書き直しか、と呑気な事を考えて居ると突然の耳鳴りと頭痛に襲われる。
「っくっ!!」
な、何だ…。
発作の類いか、と思ったが全く別物であり、僕はその痛みに耐え切れなくなり、あの時と同じような闇と浮遊感に襲われた。
揺れる、ゆれる…。
廻る、まわる…。
頭の中が、歪む。
四方に飛び散った記憶の破片が重なって行く。
その破片が形となり、僕の頭の中に一つの記憶として新たに加わった。
「くっ…こんな、事が……」
何故、こんな重要な事を忘れていたのだろう。
あの時に見た姿…。
あれは……。