第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【seventeenth.】
間違いない。
今なら分かる、私の愛しき人物。
名前だ…。
だが、それは異様に異様を重ねた姿をしていた。
この場所へ来る際に見かけた人間と同じ様な装い。これはまだ何とか免疫が付いた。しかし、彼女と思われる人物の姿、それが問題となった。
全て夢だと一括りにしてしまえば良いのだが、それに到達するには余りにも精巧に創り出されていて夢とはいい難くなってしまっていた。
視線が、非常に低い。
つまり、彼女は子供の姿をしていた。
恐らく三つ、四つくらいだろうか。
地に咲いていた花をその小さな手に抱え此方に近付いて来る。
「…!」
目が、合った…?
私の姿が見える…のか?
そう思った束の間、幼女の姿となった名前は私の存在は無かったかの様にそのまましゃがみ込む。
「気の所為、だったか…」
ふう、と一息入れ小さな彼女を見つめる。
そうしていると、彼女は終始笑顔が絶えない童子のようだ。
一人でも楽しそうに小さな白い花を集めていた。
それにつられ、先程の緊張して顔が凄んでいた私の表情も自然と綻ぶ。
もし、彼女との間にややこを儲けたらあの様な愛らしい娘になるのだろうか…。
ん…?
「私は何を考えている…」
赤くなる顔を抑え、一人ひっそりと項垂れた。
その時、風が吹き、私の視界を遮る。
その風は弱まる所か、強くなる一方で両足を広げ踏ん張らないと立っていられない程強くなった。
私はっとし、彼女の事を思い出す。
「名前!!」
しかし、風が強過ぎて彼女の姿が見えない。気配はあるのだが、私と彼女の間を遮る様に風が邪魔をする。
クソっ!!
「名前!名前!」
邪魔だっ!
私は無駄な事は承知で吹き荒ぶ風を殴りに掛る。
早く、名前を!
また…また私はお前をっ!
私はお前を救う事が出来ないのかっ!!!
そう叫んだ時だ。
私達を遮っていた風が和らいだ。
そう、一瞬だった。
しかし、これは夢だ。
夢である故に、確かめる事は不可能。
瞬く間に見えた私の良く知る御姿。
何故、
本当に、
私は思考が定まらないまま、再び暗闇へと飲み込まれて行く。