第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
「あ…」
なんと、私の手からお握りを食べていたんだ。
食べかけを ←
彼は一粒残さず平らげて表情は分からないが満足した様な感じだった。
その時の私はもうドキドキするしかなかった。
だって、指ぱくですよ?
しない方が可笑しい。
掴んでいた手が離され、その部分が熱を帯びる。
名残惜しいかの様に掴まれた所を摩る。
「……………」
ご馳走様を言うかの様に彼はペコリと頭を下げる。
「あ、すみません、食べかけで…」
私も慌ててお辞儀をした。
帰るのかと思えば、まだ私の側にいて、更に距離を詰める。
これ以上何もしないで帰って欲しいと願いながらも彼との距離は目の前で…
ぱくり。
「え…?」
私、今何された?
彼が自分の頬を指でトントンと叩き、口パクで何か伝えようとしているが、私はそれ所ではなかった。
き、キスされた…?
え?これ何のフラグですか?
彼が私の肩を軽く叩き、ようやく我に返る。
「はっ!す、すみませんっ!」
そして彼がいつの間にか転がっていたお握りを指す。
そして、私の頬に手を添えた。
その瞬間、私の顔が真っ赤になった。
もう、色々恥ずかしくて俯きたかったが彼の手がそれを邪魔をする。
そして、顔がゆっくりと近付いた…
と同時に遠くから私を呼ぶ声がした。
「っ…!!」
もう少しでキスされるかと思った…
彼は一瞬ニヤリとして、私は目をこれでもかと見開いた。
それと同時に、黒い羽根を残し消え去っていった…
「名前様、探しましたよ!元就様がお呼びですよ」
誰か居たのですか、と女中のお菊さんが言う。
「い、居ないよ!」
ウソ、付いちゃった…。
てか、言えないよね…。
風魔小太郎に餌付けしてた、だなんて。
行きましょうと声を掛けられ、ふと足元を見ると彼の残した羽根を見付ける。
「確信犯め…」
そう呟くと先に行ったお菊さんが早くと急かす声が聞こえた。
私は羽根を拾い上げ懐にしまい、彼女の後を追った。
また逢えるような、そんな気がして…。
「…風魔よ、何か良い事でもあったのかね」
「……」
「ククク…苛烈、苛烈…そうか、新しい玩具になりそうだ…」