第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【fourteenth.】
不思議な、不思議な出来事。
それは、あの幼い少女に出逢う為の序章。
手を伸ばした先に触れた柔らかな温もり。
ほら、手を開くと今でもあの時の君を感じられる。
忘れはしない。
安らかな眠りの中、君はどんな夢を見ているのだろう。
眠る君の頬に触れ、あの時を思い出す。
君と居る時だけは僕は僕で居られる。
豊臣の軍師でもなく、
ただの一人の男として、君の傍に居られる。
「う、ん…」
寝返りを打つ君。
起こしてしまったかと思ったが、穏やかな寝息が聴こえて来て僕はほっと一つ胸をなで下ろした。
あの時と比べると随分と顔が良くなった。
桜色に色付いた頬にあの時ボロボロになって短く切り揃えられた髪が流れる。
僕はそっと髪をかきあげ、額に唇を落とす。
また、あの時と同じになってしまったね。
僕は彼女の髪に触れた。
夢…
それにはまだ続きがあった。
暫くは落ち着いた日が続き、それなりに忙しく、何時もと変わらない毎日を送っていた。
その時は夢の事など忘れていたんだ。
何とかは、忘れた頃にやってくる。
まさにその通りになってしまった。
「っ!ぐっ!…がはっ!!」
この病に陥ってから、何度も味わう苦しさ。
未だに慣れない。かと言って慣れたくもないが。
この日は何時もより少しだけ無茶をした。
前日まで遠征に赴いていた為、書斎へ入ると山の様に積み上げられた紙の山が目に入った。
僕はそれを見て一つため息を付く。
だが、これを処理しなければ話は進まない。それに僕にしか出来ない事だ。
その中の一枚に手を触れた。
その瞬間だ。
またかと思う事も許されない、本当に一瞬だった。
膝は勝手に折れ、畳に這い、必死に耐えるも、それは僕を構わず攻撃する。
手は赤に染まり、視界は霞み行く。
痛い、苦しい…。
今更そんな言葉など、余計な物だ。
何よりも、秀吉を置いて先に行くなんて。
そして…。
「出来る事なら、もう一度…」
君に逢いたかったよ…。