第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
十にも満たない幼い少女。
少女から花の様な甘い匂い。
それに誘われ、少女に手を伸ばそうとしている。
警告。
触れては後戻りが出来なくなる、
本能がそう伝える。
「あたしは、わるいこと…してないデスよ…」
赤くなった両頬を小さな紅葉のような掌で摩る仕草が何とも可愛らしい。
すると、強い風が吹き、僕の視界を歪ませた。
どうやら目覚めの時間のようだ。
「…済まないが、時間が来たみたいだ。」
そして此方に来た時と同じ暗闇が空間自体を塞いで行く。
「いっちゃうのですか?」
僕の着物を摘み、上目遣いで軽く引っ張って来た。
な…なんだ、この生き物は…
持ち帰って…げふん…
「あ、あぁ、君とはまた逢えるよ」
間違いない。僕は彼女に逢う為に此処に導かれた。そう、確実に。
少女はほんとうに?と首を傾げながら答える。
き、凶器だ…←
「約束だ…」
そして、幼い少女にそっと触れた。
すると遠くの方から彼女を呼ぶ声が聞こえる。
母親だろうか。
少女は僕と母親がいる方へと視線を行ったり来たりする。
「また、ね」
僕がそう促してやると、彼女は頷く。
途中でまた花を摘み、僕から遠ざかって行った。
あぁ、今度こそ目覚める。
僕はゆっくりと倒れた。
揺れる、ゆれる。
廻る、まわる…。
ふわり、ふわりと夢、現。
何処からが夢で、何処までが現だったのか。
暗闇の中、上も下も分からないまま僕は底のない闇へと沈み行く。