第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【thirteenth.】
虫になった様な気分だ…。
甘い匂と小さな白い花に誘われ、それにつられて近付くと、その人物は幼い少女だと分かる。
どうやらその白い花を摘んでいるようだ。
小さなその手に沢山の白い花。
摘んでは溢れ落ち、それに気付き拾い上げ、そして溢れる。
それを繰り返している姿は何とも微笑ましい。
すると、その少女の視線と僕の視線が交わった。
「!!」
僕は一瞬怯んだ。
今迄誰一人僕に気付きもしなかったのに、此処へ来て初めて人に触れた。
「おけが、してますか?」
あたし、ばんそーこーもってます。
ばんそーこーが何なのか分からなかったが、この少女は僕の袖口を見て怪我をしているのかと思ったようだ。
僕は我に返り、未だに何かを探している少女に話かけた。
「これは怪我ではないよ」
それよりも、君は見えるようだね。
そう言い、少女の目線に合わせ片膝を付く。
少女は怪我ではないと聞き安心したのか、ほっと胸をなで下ろし僕の問い掛けに答えてくれた。
「…よかったです。うんと、見えるです。おひめさま、ですか?」
僕は少女の予想外な答えに心底驚いた。まさかこの様な受け答えをするとは思いもしなかった。
「なっ…!」
子供の言う事にいちいち目鯨を立てる訳ではないが、僕の顔は引き吊っていただろう。
「君の目は節穴かい?そうだろうね、節穴だね」
何処から見ても男だろう。
思わず少女の両頬を指で摘む。
子供の頬はこんなにも柔らかいのか…。
縦やら横やらに引っ張って暫く堪能していると少女の手が僕の手を払おうとする。
「い、イタイれす…やめれくらひゃい…!」
この時から始まっていたのだろう。