第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
夢、か。
僕はこの出来事を夢と解釈し、とりあえず前に向かって歩き出す。
進むに連れて賑やかになり、そこらの人間と異なる装いをしているにも関わらず、行き交う人々の群れは僕に見向きもしない。
どうやら僕の姿は他からは見えていないようだ。
そして、人間には触れられない様になっている事に気付く。
「全く、夢にしては作りが細かい」
匂いもする、人物以外には触れられる。
「それにしても、奇妙な装いだ」
着物ではなく、そうだな、南蛮の着物に近いだろう。
その様な事を思っていると、どうした事だろう。
突然何かに導かれるように、足が勝手に進み始めた。
「僕を何処へ連れて行こうとしているんだい…」
一度妙な体験をすると、こうも余裕が出来るのかと肩をすくめた。
そして、僕はソレに足掻く事無く従った。
暫く歩いていると視界が開けた場所に出る。
辺りに草花が広がっていて土の匂いが些か懐かしく感じ、先程の場所よりも遥かにこちらの方が空気が良いようだ。
「今度は何かな」
次はどの様な面白い物を見せてくれるのか、何て事を思う。
そして周りを一周見渡すと少し離れた場所に不思議な雰囲気を持つ人物を見付ける。
どうせ夢だ。それに僕は誰にも見えていない。
そして、頭の中で誰かが囁く。
実際には" 音 "だ。
ちゃんとした言葉ではないが、僕にはそれが" 声 "に聴こえているから不思議だ。
カサリ…。
一歩、また一歩と踏み出し、素足で草の上を歩く。
土が少しだけ硬い様な気がする。
少しずつ、その人物に近付くに連れ、甘い花の様な香りが僕に纏わり付いた。
足元では小さな白い花が揺らいでいる。
頭の中に響いていた音が声となり、僕を誘う。
" 此方へおいで "
僕を呼ぶのは誰か…。