第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【seventh.】
あれから私は自身の城に帰った。
そして、彼女…名前には一度たりとも会ってはいない。
逢いに行っても、半兵衛様によって門前払いだ。
半兵衛様が仰るには一度も目を覚まさず、寝たきりだと言う。
おそらく、精神的な物だろう。
それによって人払いをしている、と。
私は幾つ、一人の時を過ごしたのだろう…。
幾日、名前のいない夜を過ごしたのだろう…。
名前を想う度、胸が締め付けられ、切なくなる。
苦しい…。
この様な感情は生まれて初めての経験だ。
恋とは、この様に苦しく、切ない物だったのかと初めて知った。
冷たく、底の無い湖に、深く、深く、私の心は沈み行く。
手を伸ばし、一筋の光を見つけそれを掴もうとする。
だが、その光は刹那に消え去る。
掴み損ねた私の手は、再び光を探し求め彷徨い続けるであろう。
光には、私の手は届かない…。
光には、私の声は届かない…。
私は…。
" みつなりさん "
今にも彼女の声が聴こえて来そうだ。
みつなりさま!
また、私の名前を呼んでくれるのか…。
私のせいなのに、私がお前をそんな目に合わせたと言うのに…。
まだ、私に手を差し延べてくれるのか…。
私の、私の光となってくれるのか…!
「三成さまっ!!」
名前…
では、ない…。
私ははっとし、呼ばれた方へと顔を上げた。