第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【fourth.】
「っっ!!まだかっ!まだなのか!」
半兵衛様は額ら汗を流し、苦痛な表情をする。この様な半兵衛様は一度たりとも見た事はない。
そして、その苦痛の表情は、今にも泣きそうな表情であった。
「んぐっ!!ッっ!!!」
彼女は必死に痛みに耐える。
代われる物なら今すぐに代わってやりたい。こんな小さな身体で男も失神する様な痛み。僕はあともう少しだ、と言うしか出来ない。
その時、彼女の口の中に入れていた布が唾液で湿り、小さくなってしまう。そして、口から出てしまった。
「!!」
不味い!これでは舌を噛み切ってしまう!
僕は咄嗟に彼女の口の中に手を押し込み、それを防ぐ。
その瞬間、彼女は僕の手に犬歯を立て、重く噛み締めた。
鈍い痛みが広がる。
僕の手からは血が滲み出る。
そして処置が進むに連れ、彼女の顔は歪み、涙を流し必死に痛みに耐え、僕の手を噛み締めた。
「半兵衛様!!」
「竹中様!!」
周りが更に騒がしくなる。
「これくらい、何ともない」
彼女の痛みに比べれば、ね…。
「それよりも、彼女がもう限界だ…」
早く、一刻も、早く、彼女を楽にしてやるんだ…!
私は暴れる名前を抑える。
声にならない悲痛な叫び。出来るなら代わってやりたい…。
あぁ、名前、何故こんな姿に、あぁ、名前、名前…。
あぁ、名前、私に許しを請う許可を!!
その時、名前の様子が変わった。
彼女の口を塞いでいた布が溢れ落ちた。
私は不味いと思うも、行動に移せなかった。
何故なら、半兵衛様の方が一足早く自らの手を彼女の口に差し出したのだ。
その刹那、半兵衛様のお顔が歪む。
私は半兵衛様の行動に驚くばかりだ。
否、私だけではないだろう。
終始冷静な半兵衛様にもこの様に乱す事もあったのだ、と。
誰もがそう思ったに違いない。
そして、名前と半兵衛様の関係は何なのか、と言う疑問も浮かび上がる。
気の遠くなる刻の中、私達は早くこの悲痛な物語が終わりを告げるのをただ、待って居るだけであった。