第2章 憧れはいつだって
未だに息が整えられない。
酸欠と同時に、突然の衝撃。
物事の整理をするのには順序が必要だが、今のわたしには生憎その時間は取り残されてはいなかった。
背後から伸びてくる長い腕が、わたしの上半身の上で交差する。この腕は見覚え…いや、身覚えがある。
そう、先ほどの…
「つーかまーえた」
ねちょぉ…
お父さんとは反対の方向の耳にまた下側って入ってくる。鳥肌は立ちっぱなしであった。
ただ、こちらの男の下の感触の方が、新鮮なためか気持ち悪い。
「やめて、はぁ…はぁ…」
本当に吐き気がする。いま、ここで逃げなければ…死ぬ
「わたし、はぁ…日本に、かえります…!」
「なぁに言ってんのぉ?ここ、イタリアだよぉ〜?」
「っ…!そんなの、百も承知です!」
やんわりとクロスした腕は意外と簡単に振り解けた。
相手は仮面を取り外していたが、光の加減でその表情は未だにわからないままだった。
そしてわたしは相手との距離を取り、ステージ上の、人が集まってい非常口だと思われる方に向かって走り出した。
不思議なことに、わたしの体は恐怖に飲ままれているものの、震えることは無かった。
逃げ足だけは早い。それを利用しこの狂った空間から逃げださねば。
非常口のドアを捻り、螺旋階段を猛スピードで下る。
念のために持ってきたイタリアで換算すれば100万もの大金をここで使うことになるとは…
まずは空港を見つけること。事前に調べたが、この時間帯でも日本行きの便が一本だけある。
それに、もしダメだとしても警察だって…さらに言えば軍隊だってある。
とにかく、今は逃げなきゃ!
『待て!どこへ行く!』
『追え、追うのよ!』
後ろワーワーと喚く声が聞こえても振り返らない。
わたしに残された道は一本なのだから。