第3章 迷子の子守唄
「あれぇ、どこかなぁ?ヒヒッ…隠れんぼ得意なんだねぇ」
わざとらしい。私がレンガでできた屋根上に乗っていることを承知の上できっと、壁に向かって話しているのだ。
パイプ管を登り終えたわたしは、連なる店の屋根を走り出す。なんとも、景観のためか、スーベニショップの屋根は綺麗に高さが揃えられ、走り心地はコンクリートと同じ感覚だった。足の速さで言えば、さっきの男よりわたしの方が明らかに早い。
だから、また、空港につながる道へ走り出す。
先ほど男が待ち構えていた方角に。
この大通りを過ぎたら恐らく人気のないところになる。
そして、多分男の他にも追っ手がいるはず…
万が一のため巻けるように、道調べをしないと。
…日本行きの便まではまだ時間がある。
体力を温存しながら、回り道をするのが妥当だ。
(はぁ、はぁ。…よしっ!大通りを抜けた!)
ならば、ここからは遠回り。
この一本道より、すこし気味悪いが…
分かれ道のあるサイクリングロードを選ぼう。
観光地というだけあって、【free bike】と英語で書かれた看板のそばに、自転車がある。
走ることより、こちらの方が早い。それに武器にもなる。
少々高いサドルにお尻を乗せ、ハンドルを握る。
どうやら、紫色の男は追ってこれてないみたいだ。
ペダルに足を乗せ、坂道を下り、前傾姿勢で助走を最大限に生かす。
どうか、逃げられますように。