第3章 迷子の子守唄
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「はぁ、はぁ、はぁ!」
赤いパンプスは走りにくい。
それにこのスカート部分が大股に走るのを許さない。
非常に効率が悪い。もしも大股で走ることができたら、今頃空港にはたどり着くことができているだろう。
会場を出るときには、幸いガードマンがいなかった。
おそらくあちら側は、こちらが何もできない小娘だと思っているのだろう。が、それをいまから覆してみせる。
疾走しながら、残り99パーセントのスマートフォンの地図を開き空港の場所を確認する。
あと5キロほど。
しかし、わたしの心は思ったほど焦ってはいなかった。
この地は日本と同じ、ネオン街である。
うす暗くは無く非常に明るい。眩しいほどだ。
それにここは観光地らしく、観光客らしき人が大勢見られる。
この道は大通り。ここをまっすぐ突き進めば、空港にたどり着ける!
ただ、物事はうまく運ばない。
危険は常に潜んでいるのだ。
「こんばんはぁ、苗字さんちのお嬢さまぁ?」
「はぁ、はぁ……っ!」
大通りの最後だというところで、明らかに可笑しな格好をした男が立っていた。
ボサボサの髪をして、紫に色のシャツにベストを纏った男。死んだ魚のような目をしていた。
手に持っていたのは、小さなピストル。おもちゃと見間違えるほどだ。
近づいてはいけない。正面突破をしてはならない。
そう本能が伝えていた。
わたしは大きく旋回し、また元来た道を引きかえす。
背後を振り返ってみれば、ゆっくり、ダラダラとしかし、なぜか早く感じるほどに紫色の男が距離を縮めくる。
この大通りではこの人は巻けない!
わたしの次なる手段は、スーベニショップらの間の路地だった。そこに屋根へとパイプ管がある。
(よし、上なら…)
意を決して、わたしは細い路地裏に身を隠した。