【おそ松さん】もう二度と恋しないなんて言わないで【過去編】
第2章 お屋敷での共同生活
【ノギ】
今まで張りつめていた糸が
目の前の狐がほほ笑むだけでふと緩んだのが分かった。
あぁ、本当に人間ではないのだ。
契約を交わし、初めて呼ばれた自分の名。
<芒(ノギ)>
初めて呼ばれたというのに
胸が温かさで包まれたような感覚。
そして自分の名前だと何故だか確信した。
死のうと思い山に入ったのがつい半日前。
半日前の自分は化け狐に拾われ
まさかその遣いになるなんて思いもしていないだろう。
それが今は目の前で空狐がほほ笑んでいる。
つい先ほど初めて会ったに等しいのに
自分の奥底がこの人が自分の主だと信じて疑わない。
妖狐3匹に遣える人間。
なんて滑稽な図なんだろう。
それでも。
それでもまたあそこに戻るなんて考えられない。
今頃には死んでいておかしくなかった。
せっかく拾われた命だ。
この温かい場所で。
もう一度やり直せるだろうか。