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ストロベリーフィールド

第2章 最初のいっぽ


名前は病院に搬送されてから3日間昏睡状態だった。
その間におおまかな検査が終わっていたのか、目が覚めてからの検査は2日で終わった。
結果に数日かかるということで、退院を翌日に控えていた名前の前には真選組の沖田と知らない顔がもうひとつあった。

「山崎退です。真選組の監察やってます」
『苗字名前です。貴方は沖田さんですよね?』
沖「覚えてやしたか…」

視線を少し落とした沖田が再び名前を見据えて言う。

沖「質問することに答えてくだせェ。」
『分かりました』

沖田はそばに置いてあった面会用のパイプ椅子に腰を落とし、山崎は隣で立ったまま何やらレポートのような紙をペラペラとめくりだした。

沖「名前と歳と家族は?」
『苗字名前、22歳。兄弟はいない。母は10年くらい前に死んだ。父は商人だった…みたい。』
沖「ザキ、間違いねぇか?」
山「はい。相違ないです」

『家はどうなったんですか?』

名前は沖田の目をまっすぐ見ていた。
それは全てを受け入れる覚悟のできた目だった。
沖田はチラリと山崎を見ると、ページをめくり淡々と話し始めた。
あの日の出来事を・・・。

『焼け跡から父と従業員達が遺体で見つかった。家が放火されたのは恐らく証拠隠滅の為。』
山「貴女だけが唯一の生き残りということになります。名前さん、なにか心当たりはありませんか?」
『ありません。それとも私が火を放ったと?』
山「あ、いや!そういうわけじゃないんですけど…その…」
沖「誰もアンタがやったなんて思っちゃいませんよ。あの状況ですからねェ。んまぁ、なんでアンタだけ無傷だったのかは謎ですがねェ」
『(結局疑われてるんじゃん…)それじゃ、私は今後どうしたらいいんですか?』

家も家族も失った名前に帰る場所はもうない。

沖「アンタは今回の件の重要参考人だ。真選組が保護しやすんで、暫くは屯所にいてくだせェ。雑用でもなんでもやることはたくさんあるんで…」


それを聞いて名前は眉ひとつ動かず窓を見る。
風がカーテンと薄墨色の長いくせ毛を揺らした。

また明日来ると言い残し男たちは病室を出て行った。

(もうすぐ春になるのね…)

窓から見える桜に咲く蕾はまだ硬く、冷たい風が名前の頬を撫でた。
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