第4章 真選組のしごと(後編)
土「なんだ?」
白目を向いて動かなくなった山崎の胸元から手を離して土方が立ち上がった。
幸か不幸か、その拍子にコンクリートに後頭部を打ち付けて山崎の意識が戻る。
沖「来やがったか…」
名前は状況が飲み込めず困惑する。
沖「訓練の次は実践ですぜェ」
沖田の挑発的な表情に拳をギュッと握って答えた。
『バイクの音が10台くらい、が段々近づいてくる。2ケツしてるかもしれないから20人くらいかな。とても下品な笑い声ばっかで会話は分からない。3分もしないで到着すると思う』
土「…攘夷浪士か。おい山崎!」
はい!とバネのように立ち上がり敬礼する。
土「ここじゃ携帯は圏外だ!屯所戻って応援呼んで来い!」
山「分かりました!」
山崎は言うが早いか倉庫を飛び出していった。
土「名前、お前は―」
『私も戦う!』
土方の言葉を遮った声が響いた。
そしてひと呼吸置いてから
『だって、“実践”でしょ?』
と口元が歪んだ。
土「だが、お前の仕事は戦うことじゃない!監察だ!!」
『じゃぁ山崎さんは刀を持たないんですか?』
名前の表情が変わった。
土方は感じたことない名前の発する空気に息を飲んだ。
しばしの無言の睨み合いを断ち切ったのは当事者ではなかった。
沖「その辺にしてくだせぇ土方さん」
と先程からウロウロと何かを探し回っていた沖田が名前に向けてヒョイっと投げつけた。
目の前に飛んでくるソレを反射的に掴むと、冷たい無機質な感触が伝わる。
沖「すいやせーん、武器探したらそれくれェしか見当たりやせんでしたぁ」
名前は自身の手にしっくり収まる長い鉄パイプをバトンの様に器用にクルクルと回してみせた。
『充分よ!』
土方が沖田の名を感情のままに叫んだが、呼ばれた彼は冷静だった。
沖「土方さん。少しはコイツを信じてみましょうや」
大事なのは分かりますがね。という言葉は飲み込んだ。
煮え切らない土方は舌打ちをして名前を見下ろす。
土「くれぐれも無茶はするな、いいな!」
名前はニンマリ笑って
『了解!』
と敬礼した。
それと同時に二人にもバイクの音が耳に届いた。
下衆い笑い声と共に33人の浪士が入口から姿を見せた。