第4章 真選組のしごと(後編)
カツカツカツ。
長い脚が歩を進める。
土「人の声となると、そう簡単にはいかないだろ?」
まるで挑発するかのようにニヤリと笑ってみせた。
それに名前はムッとして10センチも高い土方を睨んだ。
しかし、それさえも土方の手の内だというとこは分かっていた。
名前はその挑発に乗ろうかと考えたが、数秒考えて軽いため息と共に思考も吐き捨てた。
『楽器や雨音と違って人の声は本当に難しいの。特に雑踏の中で特定に人の声を掴むのは…』
人が往来する街中で。
足音。声。機械音。電子音。
目を閉じるだけでたくさんの情報が無遠慮に飛び込んでくる。
『そう、例えば…ね。お祭りにクジ屋があるでしょう?』
山「クジ?」
3人が各々が色んなクジを想像した。
『そう、クジ引き。たくさんの紐についたアタリ景品を引き抜くやつ。あんな感じかな』
沖田が、あーあの詐欺みたいなヤツ…と過去の思い出でも振り返っているのか短く溢す。
『あの絶対当てさせる気のない紐の先にあるアタリを狙うの。何十、何百とある紐の中から…』
そう言うと名前は目を伏せた。
土「お前はそれを日常的に耳にしているのか?」
土方は想像しただけで気が狂いそうだと苦笑した。
しかし名前は彼の心配を感じて申し訳なさそうに笑った。
『私の聴力は、超能力とか生まれ持った力とか、そんな中二っぽいモノじゃないから』
もし土方が煙草を加えていたらポロリと落としていただろう。
3人揃っておんなじ顔をして目を白黒させていたのが面白かったのか、名前は堪えきれずに吹き出した。
土「だ、だって近藤さんが“超”能力って…」
『違う違うっ!私のは“聴”能力!単に聴力が発達してるだけだから!生まれ持ったモノじゃなくて、必要に迫られて身に付いたモノだから』
男たちが絶句して動けないでいるうちに、笑いすぎて乱れた呼吸を整える。
『意識的に音に集中しなければなんてことないの。音楽を聴いたり、本を読んだり、考え事をしたりする時は逆に全然聞こえなかったりするもんよ?ただ、音に集中するときは別!』
沖「なるほどねェ」
3つの深く長いため息が倉庫内に響いた。