第4章 真選組のしごと(後編)
朝稽古と朝食を終えた名前は、黒い車の後部座席に山崎と並んだ。
1時間ほど走らせて目的地に着くと2人を下ろし、車はどこかへ走り去ってしまった。
目の前の巨大な貨物倉庫を潜ると、中央に折りたたみ出来る長方形のテーブルが置かれていて、光があまり届かない奥の方に土方と沖田が二人の到着を待っていた。
山「副長、沖田隊長!名前ちゃん連れてきました」
山崎の声が反響する。
土方は咥えていた煙草を投げ捨て靴裏で踏みつけた。
土「じゃ始めるとするか」
『何をするんです?』
沖「聴力検査でさァ」
薄暗くて表情が見えないが、声色は笑っているようだった。
『具体的には?』
コツコツと靴音を鳴らせて近づいてくる沖田を前に、自然と身体を強ばらせる。
沖「まぁそんなに警戒しなさんな。危害を加えたりはしねェでんで」
『…はい(と言われてもなぁ)』
真横を見ると山崎と目が合い、いつも通りの笑顔を名前に向ける。
土「各地に部下を配備してある。そいつらには笛や鈴など音の出るモノを持たせてある。全員じゃないがな」
沖「単に雑談してるやつもいるが、話すネタは真選組に関することだからすぐ分かるだろう」
『ここからだと屯所は範囲外ね。じゃあ音や声をどこまで聞き取れるか言えばいいのね』
山「俺が記録を録ります」
机に地図を広げた。
名前は頷くと目を閉じて集中する。
鈴の音は3つ。
笛は2つ。
太鼓が1つ。
それを告げると沖田が小さく歓声をあげた。
沖「すげぇや。全部聞こえてやがる…」
土「問題距離感だ」
すると今度は地図を指差して
『一番遠い音が笛。近いのが太鼓…がこの辺りね。だとすると、ココとこの辺に笛があって、北側からする鈴の音はこの辺りだと思う。もう一つの鈴は反対の南側だからこの辺かと思う…んだけど、どうでしょ?』
パチパチパチパチッ
沖田が手を叩いた。
土「ほぼ正解だ。一度にこんだけ聞き取れりゃ多少の誤差はご愛嬌だな」
『楽器は周波数が安定してるから聞き取りやすいみたい。詳しいことはよく分かんない』
山「でも、半径3キロですよ?!凄いですよ!」
『でもその辺が限界エリアです。あとは天候に左右されます』
土「じゃココからが本番だな」
最初の位置からピクリとも動かなかった土方が机に向かって歩き出した。