第3章 真選組のしごと(前編)
走ること10分。
黒煙を追いかけると、そこは大通りから少し離れた薄暗い路地裏だった。。
いつの間にか土方に追い越されて、名前が一歩遅れて到着する。
『ハァハァ。ひじ、かたさ…はぐれる、なって!言っておいてっ!私のこと、置いてくん…だからっ!!』
土「あ、悪ィ。」
『別にいいですけど!!』
呼吸を整えて見渡すと火の手はないことが確認できた。
土方はただ一点だけを見つめていて、名前も直ぐにその視線を追う。
土「お前は見るな。気分のいいもんじゃねぇぞ」
『もう…遅いわ』
そこには真っ黒な焼死体が一つ。
人の原型は留めていなかった。
しかし、周りには大きな怪我をしている人が見当たらない。
『自爆テロ?にしては…』
土「こんな人気のないところでか?」
『あ、応援要請は?!』
土「さっき総悟に電話したから時期に来るだろう」
(私がもう少し早く気づいていれば…)
わしゃわしゃわしゃ
土方は前を見たまま乱暴に頭をなでる。
敢えて言葉にしない優しさもあるのだと、名前は初めて知ったのだった。
捜査。現場検証。聞き込み。
全てが終わって屯所に戻ったのは七時過ぎだった。
土「今日はもう休め。風呂は人払いしておく。出たらドアに札があるから裏返しておけ。明日は6時に道場で稽古だ」
必死に疲労を隠そうとする名前を見ぬふりして部屋まで送り届け、足早に部屋を出て行った。
足音が聞こえなくなったのを確認してから、名前は畳に背中を付ける。
『まだ1日目じゃない…』
真選組の一員になって1日。
たった1日で、名前は真選組がどれほど危険な仕事をしているのか、身を持って知ることになった。
そして…
『自信あったのになぁ。私の耳なんて役立たずじゃない』
天井を見上げると自然と涙が頬を伝っていた。
着飾った服も髪飾りも泥にまみれ、駆けずり回った足は靴擦れで血が滲んでいた。
腕にもいくつか青痣がある。
『クソッ!頑張れ私!!泣いている場合じゃないぞ』
ムクリと起き上がって両手で頬をパァンと叩く。
『お風呂入って、全部流そう!』
汚れも。疲れも。醜い心も。身体も。。。
『よし!』
タンスから着替えを探し出してお風呂場へと急ぐのだった。