第3章 真選組のしごと(前編)
朝の会議を終えると、土方は客間に名前と山崎を呼んだ。
少し広い和室に長いローテーブルが1つあるシンプルな部屋だ。
3人が部屋に入ると中年の2人の女性が待っていた。
山「副長、この方は?」
土「仕立て屋と散髪屋だ。名前、終わったら声かけてくれ。隣にいるから」
『え、あっはい!』
土「山崎はこっちだ」
そう言って名前は一人部屋に取り残されてしまった。
「さて!じゃちゃっちゃと始めましょう!」
「時間がないわ!苗字様、服を脱いてください」
(ええええええええぇぇぇ!!!!)
あれよあれよと着物を脱がされて、メジャーで採寸していく。
30分もしないで終えると次は散髪屋の女性が名前にタオルを巻いて髪を解かしていく。
(え?切るの!?髪切っちゃうの!?)
好き好んで伸ばしてきたわけではないが、髪は女の命というだけあって、いきなりハサミを入れられて背中をビクつかせた。
「大丈夫ですよ。切り揃えるだけですから」
女性はニッコリ笑う。
「あら♪この髪飾りなんか素敵じゃなぁい?」
「いいわね~!着物はこっちの色がいいかしら♪」
「苗字様は何色がお好きですか?」
「んまぁ!丈の短い着物もいいですね~」
(もぉ…好きにして…)
名前はされるがまま、二人の女性に身を委ねた。
あれから2時間ほど経ち、時計は11時を過ぎていた。
「さぁ!出来ましたわ!!」
「とっても素敵になりましたよ!!」
と、姿見に映し出された名前は一変して、別人のようになっていた。
髪の色と同じ薄墨色の帯。
秋桜柄を袖にあしらった浅葱色の和服の丈はとても短く、太ももの半部を隠す黒いスパッツがチラリと見え隠れする。
顔にはおしろい、頬と唇には紅。
髪は後ろ髪の上半分を結い、大きな椿の髪飾りが頭部から覗かせた。
『これが…私?』
「お洒落をするのは初めてですか?」
「素材がいいとわたくし達もやり甲斐があるってものですわぁ」
(そういえば服なんてロクに着たことなかったなぁ)
なんてぼんやり考えていると、後片付けを終えた女性がドタバタと部屋を出て行った。
「土方さぁん!お支度終わりましたわよー!」
おう。とダルそうな声が聞こえた。
そりゃ2時間も待たされれば気持ちが荒々しくもなるだろう。