第2章 最初のいっぽ
陽が落ちきる前に、銀時は三日後迎えにくると言って屯所を後にした。
土方は風呂と厠と食堂だけ案内して、彼の部屋で待機するように言うと出て行ってしまった。
あれから1時間。
名前は手渡された局中法度と屯所の見取り図などを読んで帰りを待っていた。
…筈だったのに。
意識は睡魔に飲み込まれていた。
近藤の部屋にて。
土方は縁側に座って煙草を吹かし。
沖田は障子に寄りかかりお気に入りのアイマスクで目を覆ってた。
山崎は廊下で背筋を伸ばし正座をしていて。
近藤は庭で木刀で素振りをしていた。
沖「まさか、あの子を入隊させるなんて思わなかったでさァ」
ブンッ ブンッ ブンッ ブンッ
土「近藤さん、何か隠してるだろ?」
ザシュッ!
木刀が自身の頭部に刺さった。
近「え?ないない!!隠し事なんてしてないし俺!!」
山(本当に分かりやすい人だなぁ)
顔面を鮮血に染めながらも尚素振りを続ける近藤はまるで妖怪のようだった。
山「実際、名前さんはどのくらい耳がいいのですか?」
沖「未知数でィ。ただ、屯所内の話し声くれェなら耳に入るだろうねィ?」
土「声だけじゃねぇ。自然の音や動物の声なんかも、きっと聞き取れちまううだろうさ」
山崎は少し考えてまた口を開く。
山「確かに、監察としては取引の会話とか遠くからの監視が出来るのは有りがてェです。けど、ホントにいいんですか?」
それは配属を決めた近藤に対するモノなのか。
はたまた、やたらと名前を気にかける土方に対するモノなのか。
投げた言葉は誰にも届かずに宙を舞って消えた。
土「言っとくが、いくら近藤さんが決めたこととは言え、俺ァ納得しわけじゃねぇからな」
近藤は手を休めて土方に向き直る。
首にかけたタオルで額の汗だか血だか分からないものを拭き取り、目を細めて笑った。
近「分かってる。だが、あの子は弱くない。むしろとても強い子だ。きっと護られてばかりだと自分の存在意義すら否定してしまうだろう。だからトシ…」
近藤はゆっくりと土方の肩を叩いた。
近「名前ちゃんを護ってやれ」
張り詰めていた空気が軽くなって、土方の口元に笑が溢れた。
そして、
土「言われるまでもねぇ…」
そう呟いて自室へと戻った。