第9章 あなた
「智くん、どこ行きたいの?」
「そんなに遠くないよ…」
にこにこ笑って、ナビをセットする。
「翔ちゃん、見ないで」
智くんが言うから、ナビをセットするところは敢えて見なかった。
でも音声、聞こえるんだけどね…
「よし、できたー!」
嬉しそうに笑って、俺の顔を覗き込んでくる。
「もう見てもイイよ!」
「はいはい…」
ナビの指示通り、車を走らせた。
どうやら海に向かっているようだ。
だんだん外が暗くなってくる。
夕暮れのグラデーションはとても美しくて。
智くんと二人で見とれた。
「綺麗だね…空…」
「うん…いつもこんな空があるのにね…」
「忙しいと、見逃しちゃうね…」
智くんがくすくす笑う。
「俺なんか暇なのに見逃してる」
「じゃあこれから病室の窓から、毎日見ようか」
「そうだね…見る」
また空を眺めた。
夜と夕焼けの境目は、綺麗な紫のグラデーション。
その先にはやわらかなオレンジ色の太陽が居た。
その隙間に浮かぶ、薄い雲にも夜と夕日の色が映えて、綺麗な絵のようだった。
日曜だというのに、道は空いていて。
意外に早く、目的地に着いてしまった。