第66章 モノの子scene9
「大野っ…大野っ…」
下を流れる景色が、濁流みたいに早く流れていく。
僕の足はこんなに強くなった。
僕の足はこんなに疾くなった。
なのに、僕の目からは涙ばかり溢れる。
「大野ぉっ…」
なんでこんなにあいつの事を求めるんだろう。
なんでこんなにあいつが恋しくてたまらないんだろう。
泉の辺りに着くと、着物を脱ぎ捨てざぶんと入る。
深淵に潜って、身体を丸める。
大人のモノの姿になってからは、人間の姿に戻ったことはなかった。
長い金色の髪に慣れるのは、時間がかかった。
こんな姿、雅鬼がみたらどう言うだろう。
かっこいいって言ってくれるかな…
潤鬼がみたら、褒めてくれるかなぁ…
ぷかりと身体が浮かんで、また潜り直す。
泉の底に手をついて、また身体を丸める。
こうやって漂っていれば、いろんなことが浮かんでは消えた。
大野のことだけ考えずに済んだ。
どうして…大野…
どうして…
「和っ…」
血に染まる首筋を押さえながら、後ずさっていく。
「大野…僕は鬼だよ…」
「え…?」
「お前の血が、欲しいよ」
「和…」
「お前を食べてしまいたい…」