第45章 哀婉scene9
カウチの感触がだんだん現実になってくる。
翔の手が俺の髪を撫でた。
「少し…痩せた?」
うっすらと目を開けると、翔が微笑んでた。
「翔…」
「ごめんね…智。来られなくて…」
「どこに…いってたの…?」
そういうと、翔は寂しそうに笑った。
「満州…」
「え?」
翔の腕を掴んだ。
「翔…」
「吹っ飛んじまった…」
翔の右手、なかった。
「どうして…」
「爆弾で吹っ飛んじまってな…」
「兵隊行ってたの…?」
「ああ…」
なんで…?
船に乗ってたのに…急に…
「でも、これで戦争いかなくてよくなったよ…船にも乗れなくなったけどな…」
「翔…」
「内地に帰らなきゃならない…」
「え…?」
「だから智…俺と…」
ぎゅっと、翔が左手を握った。
「いや…なんでもない…」
立ち上がると、上着のポケットからガラス瓶を出した。
「お別れだ」
翔の瞳から、綺麗な雫が溢れた。
ゆっくりと、それは床に落ちた。
それを見送って顔をあげたら、そこに翔は居なかった。
ドアの前で俺を振り返った。
「さようなら」