第17章 海鳴り
「大野さーん。お夕飯できましたよー!」
民宿の息子が俺を呼びに来る。
襖を無断で開けて、顔を突っ込んでくる。
「大野さん?聞こえないの?」
「お前なあ…俺、客だぞ?」
「10日も泊まってたら、客じゃねえよ」
「てめ…金払わねえぞ?」
「ぶふっ…前払いで貰ってるじゃん」
こいつは雅紀という。
漁師をしながら、この民宿をてつだってるという今時珍しい奴で。
俺の部屋にずかずかと入り込んでくる、ずうずうしい奴でもある。
「わ、凄いじゃん!このルアー」
「あっ…勝手にさわんな!」
人生の最後は、せめて好きな釣りをしたいと思って、前から欲しかったルアーを買って持ってきた。
でも、なんだか海に出る気にならなくて、今日まで一回も使ってない。
有給は一ヶ月取った。
俺は最初の二週間をここで過ごすことに決めて、前払いで料金を払ってここに滞在してる。
「…なんで使わないの…?」
雅紀がルアーを指先で弄びながら訊く。
「…いいだろ…別に…」
ごろんと畳に転がると、ばしっと肩を叩かれた。
「いてえな!オイ!」
「ごはんだってば!」
太陽みたいな笑顔を俺に向けて、雅紀は部屋を出て行った。