第16章 レイン
大好きな人がいる、と。
それからの潤は憑物が落ちたように、僕に愛する人の話をした。
どんな食べ物がすきで、どんな顔で眠るか。
一度も会ったこともない大野さんのことを、僕はどんどん知っていった。
「そんなに好きなら、病気のこと言ってそばに居てもらったら…?」
何度となく、僕は潤に言ったことがある。
でも潤は笑って首を横に振るだけだった。
「大野さんは…弱いから…」
きっと現実と直面したら折れてしまうだろう。
大野さんは絵の才能がある。
それを折るわけにはいかない。
だから、自分はこのまま消えるのだ。
そう言った。
そのまま潤は、どんどん衰弱し。
遂に意識がなくなるかという時…
潤の手が僕に伸びてきた。
「和也…お願いだよ…」
封筒を僕に託した。
潤が死んだら、潤の代わりにこの写真を大野さんへ届けて欲しいと。
これが、潤の最期の言葉になった。
「大野さん…潤は…兄は、あなたを最期まで…」
「っざけんなっ…」
ドンと床を殴った。
「なんで…何で置いてくんだよ…」
「大野さんっ…」
傍においてあったナイフを手にとった。