第12章 悪徳の花
ロッカー室から出ると、従業員出口に向かう。
タイムカードを押すと、そのまま出口を出る。
「あ…」
ロッカーに携帯を忘れた。
踵を返して、ロッカーに戻る途中医師とすれ違った。
軽く頭を下げて通りすぎようとすると、呼び止められた。
「二宮…くん?」
顔を向けると、櫻井医師が立っていた。
この病院の医院長の息子で、将来を嘱望されている。
出来が良くて、人当たりもいい。
しかも頭も切れる。
こんな跡継ぎがいるから、櫻井病院は安泰だね、と誰かが言っていた。
「二宮くんだったよね?」
「…はい…」
「ああ、よかった。名前合っていた」
櫻井医師は俺に近づいてくると、少し顔を覗き込んだ。
「顔色が良くない。具合はどう?」
「え…?特別悪く無いですけど…」
「ちょっと、いい?」
そう言って櫻井医師は俺の額に手を当てた。
「少し、熱がある」
「え…?そうですか」
自分ではわからない。
帰りに風邪薬でも買って帰ろうと思った。
「いいよ…おいで。僕が薬だしてあげる」
子供に言うように櫻井医師が言った。
さっとそのまま先に立って歩き出す。