第9章 あなた
智くんが自分の指につけていた指輪を外した。
「これ…あげる」
「え…だってこれ…」
「俺が死んだら、棺に入れてね?それまで…預けておくから…」
そのまま、智くんは何も喋らなくなった。
泣いたことで体力を奪われたんだろう。
ぐったりしていた。
「わかった…預かっておくね…」
「ん…」
小さく頷いて、目を閉じた。
それから一年が過ぎた。
抗癌剤治療をやめたお蔭で、智くんの体力はみるみる回復して。
髪の毛も生えてきた。
サナトリウムでは元気が良すぎて、いつも叱られてた。
「智くん…また何かやったの?」
「ん…壁が淋しいから、絵貼り付けたら怒られた…」
「描かなかっただけ、いい子でした…」
がっくりしながら言うと、にやっと笑う。
いたずら小僧…
「そんなに元気なら、俺んとこで暮らす?」
ほんの軽い気持ちで言ってみた。
今まで智くんはどんなに誘ってもこなかったから、そんなに深く考えて言ったことじゃなかった。
「え…いいの…?」
意外な答えに、思わず振り返った。
「え…いいの…?」
同じセリフを返してしまった。