【おそ松さん】マフィア松でスパダリ長兄松に溺愛されるだけ
第1章 お兄ちゃんから卒業
若い男の人は二人。
どっちが相手なんだろう?
「それじゃ、お嬢さん、一緒にランチでもいかがですかな?」
マツゾウさんは、にこりと笑いながら私に話しかける。
こういう状況の場合、答えはただ一つ。
「はい、私でよろしければ」
私は、一応ヤクザの娘。
英才教育はたっぷり受けているから、両親にとって都合のいい娘を演じていたつもり。
これからも、迷惑をかけたくないから、ずっと都合のいい娘を演じ続ける。
お金持ちの家の娘だって、同じようなもの。
金が回る程、人は不幸になり、金が回らないほど、人は不幸になる。
「そうと決まれば、行きますか! それじゃ、お嬢さんを頂戴するよ」
「――あぁ、大切にしてやってくれ……」
あれ、お父さんはいいにして、お兄ちゃんは?
絶対、行くよね?
私は、お兄ちゃんを見つめて合図を送ろうとした。
「ほらほら~、行こうぜ~?」
赤いシャツの人に肩を抱かれ、青いシャツの人に手を握られ、強制的に部屋の外へ連れだされる。
「お、お兄ちゃん!!」
たまらずに、お兄ちゃんの名前を呼ぶ。
「はーい、お兄ちゃんに何の用~?」
赤いシャツの人が、私の横でにかっと笑いながら言った。
驚いている私を他所に、赤いシャツの人はどんどん話を続ける。
「俺、六つ子の長男のおそ松。よろしくねぇ~?」
「俺は、次男のカラ松さぁ。よろしくな、マイプリンセス」
二人に挨拶され、私は目を白黒させる。
そんな表情の私を見て、二人は目を合わせて笑った。
「さ、行こうぜぇ~? 美味い店知ってんだって!」
「段差があるから、気をつけるんだぞ」
二人は、慣れた手つきで私をエスコートする。
段差があれば、歩きやすいようにペースを合わせるし、しかも二人共密着しながら歩く。
後ろを見ようとすれば、顎を持ち上げられて、前を向かされる。
「ノンノン、余所見なんてさせないぜ?」
完全に二人のペースに巻き込まれ、よくわからないまま家の外を出た。
玄関から外には、うちの者達が勢揃いして並んでいて、一斉に挨拶した。
「お、お嬢をよろしく頼みます!!」
皆、男泣きしながら見送っている。
こうして、私は半ば強制的に車へ乗せられた。