第1章 そのときまでおやすみ
「お風呂頂きました!あざっす!」
「はーい!田中さん、私はそろそろ寝るから、後は小夜とごゆっくりね。小夜、ご案内よろしくね」
「わかった、おやすみなさい、お母さん」
「おやすみなさい!」
「はい、おやすみなさい」
部屋のドアをがちゃりと開けると、田中さんがはしゃぎだした。
「すげえ!女子の部屋だ!」
「女子の部屋って何ですか…ここ私の部屋なんですけど、隣のお姉ちゃんの部屋で寝てもらうので、荷物そっちにお願いします」
「お姉さん困んねえか?」
「もう家出てて、そのままにしてるだけなので大丈夫です」
「そか、わかったー」
ばたばたと部屋を出ていく田中さんの背中を横目に、なんと切り出そうか考える。
「全然浮かばない…」
だからといって言わない、なんてことはしたくない。
まだ出会って時間はとても短いけれど、田中さんはきっといい人だ。できればもっと田中さんのことを知りたい。
私のことも、知ってもらいたい。
「小夜!お姉さんの部屋すごいな!ちっちゃいお前の写真いっぱいだったぞ!」
まぶしいくらいの笑顔で田中さんが戻って来た。
あれだけぐちゃぐちゃ考えていたのに、田中さんの笑顔を見た途端、頭の中にすっと筋が通ったようにシンプルになる。
「で、何しようか?」
「田中さん」
「ん?」
「…聞いてほしいことがあるんです」
「おうおう、なんでも話せ!聞いてやっから」
田中さんと目が合うと、にかっと笑顔を返された。
その顔に少しだけ安堵し、私は深く息を吸い、顔を上げる。
「私は…―」
「…以上です」
「うーん…」
田中さんは頭を掻いている。私はといえば、田中さんのリアクションが気になる反面、返ってくるものが怖くて落ち着かないでいる。
「つまりなんだ、お前とは昼間以外なら会えるってことでいいんだよな?」
「え?」
「違ったか?」
「…ち、違ってないです!」
「それだけ分かりゃあ十分だ!お前を太陽の下に連れて行かなかったらいいんだよな?任せろ!」
返ってきたものがあまりにも予想外で思考がついて行かない。
「頑張った頑張った」
そう言いながら田中さんは私の頭をなでる。
「…田中さん」
「ん?なんだ?」
涙をこぼすのを必死に堪えながら、田中さんの目をまっすぐ見た。
「…ありがとう」