第1章 そのときまでおやすみ
お風呂からあがると、田中さんはリビングでテレビを観ながらお母さんとお茶を飲んでいた。
「おっ!小夜おかえりー」
「戻りました…あの、田中さんもお風呂…」
「早く入った方が後閊えないよな!すみません、じゃあ頂きます」
「はーい、いってらっしゃい田中くん!小夜、タオルとかお出ししてくれる?」
「わかった…こっちです」
棚の方を向きながら、田中さんに背を向け会話をする。
「小さめのタオルも出しておきますね」
「いいよ、俺坊主だから!」
「そうですか…ってええええ!!ちょっと!!」
「あ?」
後ろを向くとそこには上裸の田中さんがいた。
「ななななな何脱いでるんですか!!!!」
「え?だって風呂入るし…」
「あ…」
びっくりしてしまった。男性の裸を見るのなんて初めてで、まだ心臓がどきどきしている。
「すみませんでした!タオルそこに置いてるんで!」
ドア越しに「…そっか、姉貴とは違うんだ。気ぃつけねーと」という声と、ばたんと戸が閉まる音が聞こえた。力が抜け廊下に座り込む。
女の私とは全然違う、男の人の体。
思い出すだけで…―
「何思い出してるの…ダイニング戻ろう…」
小さなため息がもれた。
「おかえり。ハーブティー飲む?」
「もらうー…」
椅子に座り手元のリモコンをいじる。テンポよくチャンネルが変わるが、バラエティーが多いこの時間はどこも同じような番組に見える。
「はい」
「ありがと…ふう、おいしい」
「小夜、あのね」
お母さんが私をまっすぐ見つめる。
「小夜にとって初めてのことばかりで怖いかもしれないけど…田中さんと小夜は長いお付き合いになると思う。なってほしいと思ってるの」
「うん」
テーブルの上の私の手の甲にそっとお母さんの手が重なる。すべすべとして暖かい、昔から変わらない手だ。
「大丈夫…きっと田中さん、受け入れてくれるわ」
「…ありがと」
言わなきゃ、言うんだ。
もしかしたら受け入れてもらえないかもしれない。
けど、それでも。
お風呂場の方から、ドアの開く音が聞こえた。