第1章 そのときまでおやすみ
それから私たちは並んで座って映画を観た後、色んな話をした。
田中さんが私よりひとつ年上だということ、バレー部に所属していること、坂ノ下商店で会ったジャージの先生は今年度からの顧問の先生だということ…
当たり前だけど、田中さんは私の知らないことをたくさんたくさん知っていた。
特に学校のことなんかはほとんど知識がないから話においていかれそうな時がちらほらあったけど、尋ねたら田中さんがその都度教えてくれた。
田中さんの表情はくるくると変わって、豊かで、一緒にいてとても楽しかった。
この人に私のことを知ってもらえて、受け入れてもらえて、本当に良かった。
「…ふあ」
ふと田中さんがあくびをしたので、時計を見てみると明け方の5時半だった。
「田中さん、そろそろ眠り…ふあ」
「なんだ、小夜も眠いんじゃねーか」
色んなことがあったからか、いつもより眠たくなるのが早い。もうすぐ日の出の時間なので、重たい足取りで窓の傍に行き、カーテンを閉める。
…だめだ、眠たくて意識が途切れ途切れになる。
「小夜?寝るか?」
「はい…」
「じゃあ寝るまでいてやるよ。大丈夫、なんもしねえから」
「はい…」
お布団に入ると、田中さんの手がおでこに軽く触れた。
「おやすみ、小夜」
「田中さんも…おやすみなさい」
自分が眠るときに誰かに「おやすみ」なんて言ってもらえるの、何年ぶりなんだろう。
うれしくて、すこしくすぐったくて、
涙が出た。
程なくして私は意識を手放した。