第1章 そのときまでおやすみ
目が覚めると、いつも通り部屋にいた。
時計を見る。午後3時、いつもよりたっぷりと眠ってしまったみたいだ。
部屋を見渡したけど、田中さんの姿はどこにもない。
「お礼、言えなかったな…」
少しがっかりしながらふと机を見ると、一枚の紙があった。
『きちんと礼言えなくてすまん
すごくたのしかった!ありがとうな!
授業中と部活中以外なら連絡取れるから
いつでも連絡してこいよ 田中龍之介』
最後にメアドと携帯番号が記されていた。
カクカクとして勢いのいい字はいかにも田中さんが書いた物らしい。
…どうしよう。嬉しくて一刻も早く電話をかけたい。お礼を言いたい。
けど今は授業中の時間のはずなので、ぐっとこらえる。
その時、外がこの時間にしては同世代のような人たちの声で賑わっているのに気づいた。
カーテンを少しだけめくって見ると、胸元に花をつけた烏野生たちがわいわいと歩いていた。
「そうだ、入学式…!」
私は急いで子機を掴み電話をかけた。
程なくして、直接の時とは幾分質の違う田中さんの声が聞こえる。
『おー小夜か!おはよう』
その言葉にはっとする。
「おはよう」も「おやすみ」も、家族以外に久しぶりに言ってもらえたんだ。
嬉しさと少しの緊張がこみ上げる。
息を吸い、ぱっと顔を上げた。
「おはようございますっ…―」
to be continued…