第1章 そのときまでおやすみ
「ちわーす」
田中さんががらがらと引き戸を開ける。店内にはいつもの金髪の店員さんと、黒い天然パーマでジャージを着た人がいた。
「あれったけちゃん!」
「田中くん!こんばんは」
ジャージの人は私に気づくと、にこりとしながら近づいてきた。
「田中くんのお友達でしょうか?初めまして!烏野高校で現文を教えています、武田一鉄といいます」
「は、はじめまして!近所に住んでます、朝比奈小夜です」
私のことをじっと見て、続ける。
「なんとなくですが、あなたとはまた会うことになる気がします」
「そうですか?」
「ええ、根拠はありませんが」
そう言って笑った後、武田先生(って私が呼んでもいいのかわからないけど)は金髪の人の方へ顔を向ける。
「…烏養くん、また伺います」
ゆっくりと、戸が閉められた。
「よし!母ちゃんにアイス頼まれてたんだ。すぐ戻ってくるから、ちょっとここで待っててくれな」
「分かりました、いってらっしゃい」
田中さんを見送り、ふうと息をつく。普段お母さんと栞那さんとしか話さないから、久しぶりのことばかりで緊張していた。
「なあ、そこの」
唐突に金髪の店員さんに声をかけられた。
「な、なんですか?」
「待ち合わせだろ、そこ椅子あるから座ってもいいぞ」
「ありがとうございます」
「お前朝比奈っつったよな、さっき聞こえたけど」
「はい、そうですけどあなたは…」
「いきなりこんなこと聞くのもあれだけど、お前の母親の名前を教えてくんねーか」
「え?芙弓ですけどそれが何か…」
「やっぱり!紫藤先生の娘さんか!いやーもしかしたらって思ってたんだ、いきなりすまんな」
「いえ…烏野のOBさんだったんですね」
お母さんが昔養護教諭をしていたという話は前に聞いたことがある。この町ではお母さんは結構有名人らしい。
「小夜!待たせた、行こうぜ」
「はいっ」
時計をちらりと見る。今は19時、きっと今日は日の出を気にする必要はないだろう。
アラームを切り、田中さんと帰路を辿り始めた。