第1章 そのときまでおやすみ
「泊まるっつてもやらしいこととかなんもしないんで!」と慌てて付け足す田中さん。
いやいやいや、ちょっと待って。
これはもう病気のことを話した方がいい気がしてきた。お母さんにも田中さんにも迷惑かけてしまう。
「ちょっと代わってください…お母さん?私」
『小夜?田中さんに病気のこと話してないでしょう』
「さっき知り合ったばかりだから…」
『…小夜、今夜は出歩かないで家に帰ってきなさい』
「…はい」
怒ってそう。このまま帰らなかったらもっと怒られそうなので、おとなしく返事をする。
『田中さんに電話をお返しして?』
「分かった…田中さん、お母さんが」
「おう…もしもし、代わりました」
田中さんとお母さんの話はしばらく続き、数分後田中さんは電話を切った。振り向いた顔は少しこわばっている。
「あのな、小夜」
「はい」
口を開く田中さんの顔に、4月の夜だというのにぶわっと汗が浮き出る。
「…お母さんが、俺が小夜の家に泊まれって」
「…は!?」
田中さんが言うにはこういうことだった。
いくら常連の田中さんでいい子だということは分かっていても、さすがにほぼ初対面の娘を一晩家に泊めさせるのはさすがに心配。
かといって未成年が夜中にふらふらしているのはよくない(私の病気のことは黙っているみたい)。だから、田中さんが家に泊まりに来ればいい。
「悪ぃ小夜、俺余計なことしたかもしれん…」
そう言ってしょぼんとする田中さん。やっぱり悪い人じゃないんだろうなと思う。
「そんなことないです、ありがとうございます」
「俺一回家に戻って着替え取って来んだけど、どうする?一緒に来るか?」
「家の場所分からないですよね、着いて行かせて頂くかどこかで待ち合わせを…」
「おっ」
ぱちんと指を鳴らし、田中先輩は続ける。
「じゃあ買い物もあるし、あそこでいいか!」