第1章 そのときまでおやすみ
足元の石を爪先で蹴りながら、私はのんびりと歩いていた。
思っていた通り、今日は天気が良かったみたいだ。地面も濡れていないし、風もほとんど吹いていない。
さて、どこに行こうか。
行き場所を決めかねたのでとりあえずボヌールへ足を運んだ。入口の戸を開けると、からんと軽い音が鳴る。
入ったときに少しだけ感じた違和感は、明るい声によって流れていった。
「いらっしゃーい」
「こんにちは、栞那さん」
「小夜じゃん、やっほー」
お店にはいつものように栞那(かんな)さんがいた。いつものことだけれど、ショートの黒髪がつやつやしてきれいだ。今日もたくさんつけられているピアスたちが栞那さんの両耳にきらきらとちりばめられている。
「あれ?」
「ん、どした?」
「夕方なのに烏野生がいないなーって」
ボヌールは烏野高校のすぐ近くにあるのでよく高校生が来ているのだけれど、今日はひとりもいない。
そうか、さっき感じた違和感はこのことだったのだ。
「明日入学式らしくてね、部活ないんだって」
「あーもうそんな時期…」
「…小夜と同い年の子が高校生になるんだ」
「そうだね」
「夜間主の高校本当に行かないの?」
「うん、行かない」
「そっかそっか。まあほらほら、好きなの食べていきなよ」
「…ごめんね、ありがとう栞那さん」
高校に行かないと決めたのは自分でのことだった。
紫外線アレルギーが発覚したのは私がまだ物心のついていない頃だったそうだ。光を浴びると皮膚がひどくかぶれるし、気持ち悪さと頭痛で立てなくなってしまう。
昼間に出かけるのは好きだった。けど症状が出る度に入院して苦しかったので、子供なりに考えた私は結果小学生の時に昼間に活動することを辞めた。
小学校も中学校もろくに行けた試しがないし、社会的なルールについて行けないだろうと思ったからだ。
それに勉強は好きだけどひとりでもある程度まではできるから問題ない。
けど、ときどき思う。
学もなく社会と交わることのない私はどうやったら生きていてもいいのだろう。お母さんやお父さんは私がどうしたら嬉しくて、どうしたら悲しいのだろう。
新生活の季節らしいし、私もルーティンな日常を変えなきゃな。
なんてことを考えながらクロワッサンをかじる。
ぽろぽろと落ちていくかけらを、手で机の端に払いのけた。
