第2章 ハルハウララ
お母さんが家に着いたときにはまだ日が暮れていなかったので、二人で軽くご飯を食べていた。
「お母さん、今日は何買いに行くの?」
「え?何も?」
「えっ」
「買い物は昨日行ったから何もないよー」
「あれ、じゃあ今日どこ行くの?」
話が噛みあわないことにむずがゆさを覚えながら尋ねると、お母さんはけろっとした顔で答えた。
「え?烏野高校」
「え、烏野…は!?」
全く事情がつかめないまま、私はお母さんに連れられ烏野高校へやって来た。
はじめての高校に、足を踏み入れるのさえどきどきする。
「もう日も暮れたし、残ってるのは運動部ばっかりねー」
そんなことをのんびり言いながらお母さんが歩いて行けているのは、自分がここの卒業生で、その上数年前までここに勤めていたからなのだろう。
全く迷うことなく、「職員室」と書かれた部屋の前に着いた。
「小夜はここで待っててね、お母さんちょっと先生方にご挨拶してくるから」
そう言い残すとお母さんはドアを開けるや否や「こんばんはーお久しぶりですー」と言いながら部屋に吸い込まれていってしまった。
まわりがコンクリートらしい校舎は少し寒い。
仕方がないからその場でしゃがんでいると、すたすたと歩いてくる人影が見えた。
距離が近くなるとだんだん見えてきた。
黒いジャージにつやつやの黒い髪、細ぶちの眼鏡をかけている。女の私から見ても、とても美人だと嫌味無しに思う。
私の視線に気づいたのか、切れ長な目が私の目と合う。慌てて会釈をすると、にこっと控えめな微笑みを返してくれた。
やがて職員室へ入っていった美人さんは、なぜかお母さんともう一人との3人で出てきた。
それだけでも十分びっくりだったのに、さらに一緒に出てきたもう一人というのが、数日前に坂ノ下商店で会った天パの緑ジャージの人だったのだ。
さすがに聞かずにはいかれなかった。
「こんばんは!えっと確か…小夜さんでしたね、先日はどうも」
「え?あ、あの…」と動揺する私をよそに、
「先生、部員が待っているので…」と美人さんが控えめに言う。
「お母さん…」
「まあまあ先生、あちらに着いてからお話ししましょう?」
「そうですね…では皆さん、行きましょうか」
「ええ」
「はい」
「え、え…?」
先を行く3人から逸れないように、私は走り出した。