第1章 ◆*・1・*◆
雅紀くんと出逢った頃の私は空っぽな人間だった
でもこれだけは言える
精一杯生きてた
最初に見かけたのは通ってる中学の廊下
次は高校1年の時だった
声をかけられたのは3年の時
冬だった
「就職決まんない?」
進路指導室から出て来た、その人は
時々見かける「かっこいい人」だった
私がまだ就職が決まらないのを、なぜこの人が知ってるのか不思議だったけど
「はい」と答えた
名前も知らない学生でもないその人に何故そんな返事をしたのか、自分でもわからなかったけど
きっと、目の前のその人が優しく笑ってるからだと思った
その時はそれだけ
卒業式の日
校門の外に出たら彼がいた
「迎えに来たんだけど」
優しく可愛く笑うその人にドキドキした
好きだと言われたわけでも付き合ってくれと言われたわけでもない その男の人の言葉に
鼓動が速くなって行くのを抑える事が出来ない
でも
その人がもたれかかってる、大きくて黒い左ハンドルのその塊に乗るのは怖い
私はその人を見つめながら小さく首を振った