第1章 ◆*・1・*◆
眠る横顔は無垢そのもので
涙が零れそうだった……
あの日
いつものように雅紀くんに連れられて
飲みに行ったクラブに
智がいた
みんなが騒ぐ中
そこだけ時間が止まったかのように
纏う空気が違うように見えた
雅紀くんは、こういう店を何軒か経営してるみたいで
「いい子で待っててね」
優しく頭を撫でられて、いつもどこかへ消える
ほんの30分ほどだけど
この時間は少し不安になる
あまりキョロキョロせず、じっとグラスを見つめながら待つ
雅紀くんと出逢ってお酒も飲める歳になって数年
いつの間にか大人になった私は
大人になった証拠もないままの大人だった
カウンターの中のバーテンが、待ってる間に
スモークチーズやクラッカーを「どうぞ」と笑顔で出してくれる
何も頼んでないのに、ここも雅紀くんの店なんだろうか…
お礼を言って、食べたはいいけど
歯にチーズがべったり付いた
いつも、綺麗だよと褒めてくれる雅紀くんが帰って来る前に
トイレの鏡を見ようと、細い通路のほうへ向かって歩いた
さっき
あそこに座ってた、あの男の子はいない
泳がせた視線を戻してトイレへと通路を曲がった先に
居た