第1章 ◆*・1・*◆
2004年の春だった
10歳も年上の男の
女になって3年
うっすら知ってた
彼には私とは別の世界がある事を
雅「今日は美味しいもの食べに行こっか」
軽い話口調と若く見える風貌
きっと、歳相応に見えない私は彼と並んでも
十分、そのへんにいるカップルと変わりなく見えるだろう
ただ
優しく紳士すぎるほどのエスコートが
その辺の男達と違う所かもしれない
恋をしてた
若い私には全てが憧れだった
お洒落なレストランも
与えられる洗練された服も
スマートなキスも私の髪を撫でる綺麗な手も
優しい口調も快楽も
生活の全てだった
ただ彼が私に与えなかった物
自由
「はね、ここで待ってるんだよ、何もしなくていいからね」
あの日、宣告された地獄
その時の私にはわからなかった
囲われた女がどれだけ不憫か
日常の素晴らしさを、どれだけ感じられないのか
人生の全てがそこにあると思っていた
彼の束縛こそが愛だと思っていた
囚われの身の経験の乏しさ
その「経験の乏しさ」こそが彼を裏切る要因になる
「雅紀くん」
小さな声で呼んだ私を見る顔は
いつも優しい
雅「綺麗だよ……」
嬉しそうに微笑む彼が私に手を伸ばす
連れて来られたレストランで
人目も憚らずに立ち上がって雅紀くんのそばに座った
「あの時を見つけて良かった 愛してるよ・・・」
雅紀くんはいつも私にそう言う
彼の吐く言葉はまるで魔法
呪文を唱える度に
私の心を
彼に縛りつける
それで良かった
あの日までは・・・